4.条文が重要である理由

弁理士試験は、「法律試験」です。法律試験である以上、条文に則って答えることが大原則になります。これは法律試験の基本中の基本であり、無視することはできません。

また、条文の理解が足りないと、判例の勉強をしたときに判例に対する理解が不十分なものになりかねません。

例えば、特許権侵害訴訟において、先使用権が問題となったケースを想像してみてください。特許権を侵害しているといわれた人(以下、「被疑侵害者」)が、特許出願前に特許発明と同じ発明を自ら発明し、その特許発明を実施しており、現在もその実施形式を全く変更していない場合は、明らかに特許法79条に規定される全ての要件を満たしています。このような場合、特許権者側も先使用権の存在を認めざるを得ませんから、裁判沙汰という「もめ事」に発展しようがありません。

しかしながら、被疑侵害者が、当該特許出願の際に特許発明品を製造するための工場を建てていたものの特許発明の実施までには至っていない場合には争いごとに発展します。なぜならば、特許法79条には、「特許発明の実施」だけで無く「事業の準備」をしていた場合にも先使用権が発生すると規定していますが、どのような行為が「事業の準備」に当たるのか全く規定されていません。このような場合には、特許権者側としては「工場の建設」は事業の準備に当たらないという主張をするし、被疑侵害者側としては当然準備に当たると主張します。このような主張のぶつかり合いが起こるため、最終的に紛争解決機関である裁判所が判断することになります。判例はその判断の結果です。

条文の知識が無いと、判例を読む際に「なぜ争いごととなったのか?」、「法律上問題となっている点がどこにあるのか?」という点の把握が困難になります。一見そんなことを知らなくても問題ないように思えるかもしれません。しかしながら、この点を把握しておかないと、非常に特殊な争いごとのケースについての判例(例えば、商標の著名な判例である「小僧寿し事件」)の結論が、全ての事件に当てはまると勘違いしてしまう恐れがあります。

さらに、近年の口述試験では、「条文通り」答えることを要求される場面が増えてきています。厳しい試験官に当たった場合、「基本的な条文くらい条文集を見ないで答えなさい」と言われる可能性も大いにあります。

弁理士試験の最終合格を目指すのであれば、やはり条文をしっかりと読むことが何よりも重要であると考えます。