7.口述試験は難しくなったのか?

近年口述試験の合格率が下がってきています。私が合格した平成17年の口述試験の合格率は、93.3%でした。平成17年以前の口述試験の合格率が90%台後半だったこともあり、平成17年の口述合格率がこれよりもずいぶん下がったことで当時結構騒がれたものです。これに対して、平成25年度の口述合格率は81.7%ですから、私が受験生だった時代とは桁違いに合格率が低下しています。

それでは、口述試験の難易度が、私が受験生の時と比較して極端に難しくなったのでしょうか?近年の受験生にお話を伺うと、「条文通りに答えろ」「青本の記載通りに答えろ」と試験官から要求される場面が増えており、その通りに答えられないと次の問題に進んでもらえないというケースが増えているようです。私が受験生だったときの口述試験でも、そのような要求がされたことはありますが、今ほど厳しくは無かったと感じております。やはり、口述試験の難易度は、昔に比べて多少上がっているように思います。

しかしながら、口述試験の難易度の上昇の程度が、合格率を10%以上も押し下げるほどのものとは思えません。条文、青本に即して答えるという基本は昔から変わりはありません。試験委員の目が厳しくなったとは言え、この基本が変わらない以上、10%も合格率を押し下げた原因は他にもあると考えるべきでしょう。それでは、他の原因とは一体何なのでしょうか?

私は、論文試験の試験傾向が変わったことが大きく関係していると考えます。

例えば、以下の2つの試験問題を見比べてください。一つ目は、現在の試験制度に近い制度で行われていた弁理士試験のうち最も古い、平成14年度の特許法の問題です。二つ目は、平成25年度の特許法の問題です。

http://www.jpo.go.jp/torikumi/benrishi/benrishi2/pdf/fy14_ronbunshiki/tokkyo.pdf

http://www.jpo.go.jp/torikumi/benrishi/benrishi2/pdf/h25benrisi_ronten/shiken_jitsuyou.pdf

2つの問題を見比べると顕著な差があることを理解していただけると思います。

平成14年の特許法の問題は、2つの大問の中に、テーマの異なる小問が4つ含まれています。これに対して、平成25年の問題は、2つの大問の中に、テーマの異なる小問が9つも含まれています。平成25年の問題は、平成14年の問題と比較して、小問が5つも増えていることになります。

以前の論文試験は小問の数が少ないため、一つの問題に対する解答の記載量が一定以上必要となります。ある程度の量記載しようとなると、条文、青本、判例、学説等に関する一定以上の知識が必要とされます。

これに対して、近年の論文試験は小問の数が多いため、一つ一つの問題に対する記載量があまり必要ではありません、というよりも、記載しすぎると解答用紙の紙面を圧迫し時間も足りなくなるため、記載量を抑える必要があります。当然、以前の論文試験と比較すると深い知識は必要なく、むしろ、いかに簡略化して記載できるかが重要なテーマとなってきます。近年の論文試験において、受験機関のテキストだけでも十分対応可能な理由がここにあると考えます。

しかしながら、口述試験はどうでしょうか?口述試験で聞かれる内容は以前とは全く変わっていません。重要な条文や青本の記載の知識が聞かれることは以前の通りです。その上、試験官の合否判断は昔よりも厳しくなっています。

口述試験の合格率が低下した大きな理由の一つに、論文試験で求められる知識の深さのレベルが以前と比較して低下したのに対して、口述試験で求められる知識の深さのレベルは昔と変わらず、さらに正確性が求められる頻度が高くなったため、論文試験と口述試験との間のギャップが昔に比べて大きくなった点にあると考えます。